16)他人との距離感覚
= “誰かに近づきたい症候群”? =
数年前、ウィーンに行ってきたんですが、スペインとオーストリアの国民性の違いには
今さらながらビックリさせられました。私達が宿泊したホテルは地元のオーストリア人
やドイツ人で満員盛況、朝食時には自分の席を確保するのに一苦労だったのですが、
ところがナント、と~っても静かなのです!!
いえいえ、みんなおしゃべりはしているのです。でもスペイン人たちと違って、とても
ちいさな声でヒソヒソと話すのです。信じられませんでした! もしこれがスペイン人
なら、そりゃあもう、けたたましい食堂となっていたに違いありません。
そればかりかこの国の人達は、携帯で話すときも、とてももの静か。「オーラー!」と
背後で突然叫ばれ、ビックリして振り返るスペインとは、全くの別世界なのでした。
もちろん街もきれいですし、バルセロナと違って、ゴミも犬の糞も落ちてやしません。
でも、ワタシは見てしまったのです! スペインに帰る機内で、座ったばかりのドイツ人
夫婦が、突然大声でしゃべり出したの です。
何がどうなっちゃったの? 彼らの道徳心は、自分の国の中だけなの??
(そういや彼らスペインに来ると平気で道にゴミを捨てるって、誰かが言ってたっけ)
とっても違うドイツ人とスペイン人。でも私たち日本人から見れば、彼らはほぼ一緒、
いわば“ヨーロッパ人”という同じ種族です。そして彼らと私たち日本人との間には、
それこそ深くて暗い河(ちょっとオーバー?・・)が横たわっているのです。
それは、人と人との間の距離感覚です。
先日、バルセロナの街を歩いていると、二人のセニョール(男性)が激しい口喧嘩を
していました。それこそ100メートル先まで聞こえるような大声で、相手をののしり
合っているのです。二人とも両手を思い切り上げたり下げたり、広げたりすぼめたり
・・・、ラテン系の人々の動作はホントに忙しいのなんの!!
とくに異様だったのは、彼らの距離です。もうお互いの鼻の先がくっつきそうに、顔と
顔を近づけて、お互いの唾液も、相手の顔にふんだんに噴射しまくっていて、それは
それはオドロオドロシイ光景なのでした。
こんなこと、日本ではあり得ない!
喧嘩をするということは、怒りを感じているということ。だったら、なるべく離れたい
と思うはずだし、だいいち、そんなに相手(敵)に近づいちゃ危険でしょ!!
(もしかしてこの二人愛し合ってる?)
(コロナ禍の今だったらリッパな犯罪?)
・・・とまあ、私たち日本人にはそう思えてしまうのです。
でも実は、これはなにも喧嘩に限らないのです。道を歩いている時も、彼らはぶつかり
そうになるまで人に近づいてきますし、突然目の前で立ち止まったり、人の前を平気で
横切ったりするのです。もちろん遠慮のココロがないこともありますが、もしかすると
彼らは、単に人に近づくのが好きなのかもしれません。 でもこれは以前にも書きまし
たが、日本人にとって、許しがたき暴挙です!
「無礼者、そこへ直れ、タタッ切ってくれるワ!」
(また言っちまった!!)
それこそあの参勤交代の時代から、日本の平民はお上のために道を空け地面にひれ伏し
そしてつねに、他人との距離感覚をとっていなくてはなりませんでした。でなければ、
即刻タタッ切られるかも知れなかったのです。そして最小限の距離とは、きっと侍達が
腰に差していた大刀の長さだったことでしょう。
ーーそういや、フランスに住む娘がこんなふうに怒ってましたーー
映画館に行ったらガラガラで、これはユッタリ映画が見られると喜んでいたら、次に入
ってきたカップルがすぐ隣りの席に座ってビックリ。 いくらでも他の席があるのに、
なんでわざわざ、ぴったりすぐわきにに来なきゃいけないのよっ!!
そうそう、パリのカフェやレストランでは隣りの席との距離が異常に近く、みんな隣り
とくっつくようにして飲んだり食べたりしてたっけ。ここバルセロナでも、お店の
ウインドーをのぞいていると、必ずといっていいほど誰かやって来てのぞき始めるし、
こっちが商品に手を差し出すと、これまた誰かが必ず同じ物を掴むのですから。
そればかりか、人と会えば何度も頬をくっつけて“チュッチュ”したり抱き合ったり、
ヨーロッパ人の“誰かに近づきたい症候群”はそうとうのもの。
考えてみればヨーロッパにも騎士の歴史があったはず。彼らにタタッ切られた人達も
少なくなかっただろうに、何故その感覚が消えてしまい、どうして私達日本人には
いまだにあの頃の「他人との距離を保とうとする感覚」が残っているのでしょうか?
いやはやなんとも、不思議なことではありませんか!
ーー次回は「車の運転」をお送りする予定ですーー
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